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気付いたら何処か見知らぬ場所で赤ん坊に退化していた。
女だったのに男になってて、戦なんてやっている時代だった。
ここが何処で、どんな世界で、一体自分に何が起こったのかわからないけれど、今自分がすることは、ただ生きることだった。
知らぬ間に 01
新しい両親は、お世辞にも良い親とは言えなかった。
親とも思いたくなかった。
お金はないのに賭けごとをする、物は盗むし人付き合いも悪い。
私の意識がはっきりしたのが、私がこちらで生まれて一年、つまり満二歳のことであった。
それなのに、食べ物も与えず、世話もせず、毎日飲んだくれては賭けごとをし、そんな生活が四年は続いた。
そして私が満六歳になったころ、ついには悪奴らに手を出して、そのままあっけなく死んでしまった。
悲しくはなかった。
でも虚しかった。
これが私が初めて見た人の死んでいる姿だった。
死にたくないと思った。
今まで生きたいと思ったことなど一度もなく、死にたいと思ったことは幾度となくあった。
それでも、死に直面して私が思ったことは”死にたくない”だった。
幸いに、両親が死んだ事で溜飲の下がった悪い奴らは私のことを知ることもなく、家に手を出すわけもなくそのまま何処かへ行ってしまった。
私は家の中にある僅かばかりの調度品をすべて売り払い、少しの布と母と呼ばれるだろう女の持っていた裁縫道具、包丁数本を風呂敷に包み、五年間過ごした家を後にした。
家を離れ、村も離れ、一人でいろいろな村を転々と歩いた。
旅と言ったら聞こえはいいが、ただの放浪である。
ある村に立ち寄った時にバイトをしようと思い雇ってもらえないか頼んだこともあった。
最初はみんな渋って、雇ってもらえないことが多かったが、一人に雇ってもらい、二人に増え、三、四と増え続け、いつの間にかその村の中では有名になってしまっていた。
仕事は丁寧で、早く、とてもいい子供がいると、その村では噂が流れたからだ。
私にとっては良い噂だったのでそのままにして、少しばかり増えた銭を持って呉服屋で糸を買い、商品に使えない布を譲り受け、それで布小物を作って売ったりもした。
少しずつ少しずつ銭は増え、バイトの常連すら出来たころだった。
村が戦に巻き込まれたのは。
村は火に包まれ、あちらこちらで悲鳴が聞こえる。
村の人たちはすぐに逃げようとしたが、間に合わなかった。
私はもともと村はずれに住んでいて、どうにかこうにか逃げ延びた。
静かになってから村に戻ると、知ってる顔の人たちが、みんな地面に倒れ伏していた。
死んだ人の山。
村はすべて焼け落ち、戦の格好をした知らない人も沢山死んでいた。
地面に赤黒い染みが沢山あって、笑顔を向けてくれた沢山の死に顔もあって、私は頭が真っ白になって。
悲しかった。
虚しかった。
罵りたかった。
なぜこうなったのだろうか。
なぜ私だったのだろうか。
なんでこんな目に合わなければならない。
その日私はその村を去った。
初めてこの世界で幸せを感じた場所は、もう無くなってしまったから。
続
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