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「ぅわあ!」
小さな叫び声の後にドサッと何かが落ちる音が聞こえた。
ある少年 1-02
ああ、なんて僕は不運なんだ。
庭に開いた小さな穴、先輩方の誰かが掘ったのであろう蛸壺の中、丸く切り取られた空を見ながら、善法寺伊作はため息をついた。
昔から、と言っても伊作はそれほど年を取っているわけではないのだが、物心ついたころから、自分は何かと不運だった。
何もないところでこけるのは当たり前。
何か手伝いをすれば、手伝うことより多くの迷惑をかけてしまう。
外へ出れば必ず怪我をして帰ってくるし、お前は本当にどうしたものか、とは母の言葉だ。
迷惑をかけるだけの自分が嫌で、だからそんな自分を補うために忍術学園へ来たというのに。
ここに入ってから余計に不運度が増している気がする。
ここに来てからというもの、こけるのはすでに常であったけれどそれに”蛸壺に落ちる”が追加された。
いたるところに罠が仕掛けられていたから、前よりも怪我をする回数も増えた。
それに加えて、不運委員と名高い保健委員にも入ることになってしまったことも不運だったと諦めるしかなかった。
何をしても裏目に出る。
不運な自分を、迷惑をかけるだけだった自分をどうにかしたくてここへ来たのに。
結局はいつもと同じじゃないか。
情けない。
みんなが僕を何と言っているか、僕は知っている。
善法寺は不運で疫病神だから、近づくと移されるぞ、みんな近づくな、だ。
それも痛いくらいに承知していた。
現に、同室の食満留三郎は、私の不運を受けてなのか、自分で不運を運びはしないが巻き込まれる形で何度か不運だと言われるような場面に陥っている。
すごく申し訳なかった。
不運になって培ったものと言えば、丈夫な体と怪我に対する知識と経験だけだ。
他には何にもなかった。
ごそごそと懐を漁り、簡易の救急箱を取り出す。
少しの薬と包帯が入ったそれは、昔から常に持ち歩いているものの一つだった。
簡単に自分の身体の怪我を治療して、あとは誰かが助けてくれるのを待つだけだった。
縄など持っていなかったし、苦無もない。
自力で這い出るには深すぎるこの穴。
遠くにぽっかり切り取られた空が、少し霞んで見えた。
***
先ほど聞こえた声は、こちらの方だったと記憶する。
保健室へと続く廊下を歩きながら、庭へと注意深く目を向けた。
叫び声の後に何かが落ちる音と言ったら、蛸壺や落とし穴、塹壕といった罠の名前が瞬時に浮かんだ。
誰が引っかかったのかはわからないが、引っかかるくらいなのだから自力で出れる可能性はあまり望めない学年だろう。
たとえ自力で脱出できていたとしても、万が一というものがある。
もしもの可能性を私は捨てきれなかった。
少し歩くと廊下のすぐ傍の庭に、ぽっかりと穴が開いている。
きっとこれだ。
だって穴から人の気配がする。
「・・・大丈夫ですか?」
穴の中にいたのは、私と同年だろう小さな男の子だった。
続
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