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「お前なんか大嫌いだ!」
泣きそうになりながら走り去って行った子供の背中を見送った。
嫌いだ 1-05
いつものようにいつものごとく、小平太と長次と伊作と私の四人で一緒に遊んでいた。
木陰に座って昼寝をしたり、縁側でお茶を飲んだり、校庭でバレーをしたり。
いつものように過ごしていた。
子供のように。
普通の子供であるかのように。
私はバカだ。
小平太も長次も伊作さえ私を受け入れてくれたから、自惚れていたのかもしれない。
そうじゃなければ、自分から声をかけるなんてこと、絶対にしなかっただろうに。
男の子が一人、庭先にうずくまっていたから、どこか怪我でもしたのかと思った。
怪我をしたのなら保健室へ連れて行かなければ、あとでこのことを知った伊作も心配してしまう。
伊作は心根が優しいから、知らない人間だろうと怪我をしたのだと言ったら泣きそうになりながら手当をしてくれるのだ。
だから、早く連れて行かねば。
そう思ったから、声をかけた。
「怪我でもしたのか?なら保健室へ行こう。伊作が手当てをしてくれるよ」
ほら、と手を差し伸べて相手の顔を見て。
そこでやっと気がついた。
相手が私を睨みつけていること。
その瞳の奥に、好意的でない感情が浮かんでいること。
ぎくりと身体が硬直したのが分かった。
「お前、秋原伊織だろう」
子供特有の可愛らしい高めの声。
だけれどその声音に、子供らしさはあまり感じられなかった。
憎いと、そう言っているかのようだった。
「俺はお前が嫌いだ。俺から大切なもの取っていくお前なんか嫌いだ」
「・・え、あ」
「お前なんか大嫌いだ!」
目の端に涙をためて、だけれど決してそれを零そうとしなかった子供は、走り去っていってしまった。
私は差し出したままの手をだらんと身体の横に垂らして、呆然と前を見つめていた。
バカだ、と思った。
自惚れていた、私はバカだ。
ぎゅっと拳を握って、暗くなり始めた空を仰いだ。
どこまでも澄んだ空が、どうしようもなく悲しかった。
続
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