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あいつは嫌いだ。
俺から大切なもの取っていっちゃう。
あいつなんて嫌いだ、大嫌いだ。
だって。
嫌い嫌い 1-06
同室の善法寺伊作と食満留三郎はとても仲が良かった。
一人っ子の伊作に対し、留三郎は四人兄弟の三男坊だった。
下にもう一人兄弟がいたが、それでも元来世話焼きな性格なのか、しょっぱなから不運連発な伊作に対して冷たく当たるどころか「しょうがないなー」と言っては助けていた。
留三郎は実家に置いてきた下の弟のような伊作に、とても優しかった。
そんな留三郎に伊作が懐かないわけもなく、二人の仲はすこぶる良かった。
しかしそれがある時期からがらりと変わった。
留三郎はなんら変わらなかった。
変わったのは、伊作だった。
いつも保健室か自室にしかいいない伊作が、そのどちらにもいない。
図書室にでも行っているのだろうかと探しても、図書室にも見当たらない。
ならば食堂かと行っても、いない。
どこにいるのか、留三郎は学園を歩き回った。
なにも伊作に用があったわけではない。
ただ、心配だった。
小さな不運ばかりを連発する伊作だが、もしかしたら怪我をしているかもしれない。
自分じゃどうにもできない罠に引っ掛かっているかもしれない。
助けなければ、と留三郎の中に使命感にも似た何かが生まれていたのだ。
だから、中庭の木陰で昼寝をしている四人を見つけた時、留三郎は身体のどこかに穴があいたような気持ちになったのだ。
穏やかに、安らかに。
寝息を立てて幸せそうに寝ている顔を、伊作の顔を見て、留三郎は最近の伊作の行動を思った。
俺の隣にいることが少なくなった。
俺が助けることが少なくなった。
俺と一緒にいることがほとんどなくなっていた。
留三郎の心に、小さな嫉妬の火が灯った瞬間だった。
続
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