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直感的に 5.5

私は彼が好きだと思った。
彼の傍にいたいと思った。




直感的に 5.5




初めて彼を見たのは教室に入った時だった。

入園式で仲良くなった中在家長次とおしゃべりしながら教室に向かっていたんだ。
長次は無口で、話してても声が小さいけど、面白いやつだ。
これは私の直感だったけど、私の直感はよく当たるんだ。
村にいた時もそうだったから、きっと今回もそうなんだ。
すぐに仲良くなれる相手をみつけられて上機嫌だった私。
教室でももっと沢山友達を見つけようと意気込んでいた。

教室は新入生でにぎわっていた。
まだ先生が来ていないのか、みんな周りの子たちと話をしていて、私も長次の手を取ってその輪に入ろうと思った。

ふと、ある場所を見た。
一人の新入生がぽつんと座っている。
彼を見た瞬間、好きだと思った。
長次と会った時みたいに、面白いとかいいやつだとか、そう言ったものじゃなかった。
純粋に好きだと思った。

それから私は彼、秋原伊織と仲良くなろうと、彼の後を付いて回った。
秋原は私が話しかけても返答をくれないし、私が近寄ると嫌そうに顔を歪めたりもした。
それを見たときは近寄らない方がいいのかとも思った。
もちろん私はそれでも好きだったけれど、彼が嫌な思いをするならやめた方がいいのかもしれないと、普段あんまり考えない私がいろいろ考えたりもした。
同室だった長次に相談したこともある。

「長次、私は秋原が好きだ。でも秋原は私が嫌いみたいだ。どうしよう」
「・・・・・・・・・大丈夫だ・・・」
「そうかなぁ?」
「・・・・ああ、小平太なら大丈夫・・・」
「そうか!ありがとう長次!」

私はそれから後も秋原を付けて回った。
最近じゃあ、こっちを向いてもくれなくなったけれど、それでも良かった。
秋原の傍にいたかったから。

同じ教室の子に聞かれたこともある。
なんで秋原の後をつけているのか、と。
私は一緒にいたいからだと答えた。
その瞬間、ほんの一瞬だけ、秋原が嬉しそうにしたから、私は嬉しかったんだ。
秋原に嫌われているわけじゃない!
長次の言った通りだ!
もっともっと傍にいよう!
そうすればもっと好きになってくれるかもしれない!

だから私は、危ないと言われている庭を歩く秋原を追いかけようとした。
普段は絶対に降りない競合地帯。
でも、秋原の傍に、もっと傍にいたいから、私は秋原を追いかけた。

でも。

「・・・私に近寄るな」

突き飛ばされて尻もちをついた私に降った言葉。
痛かった。
苦しそうにそう言った秋原の顔を見て、私の心臓が悲鳴を上げた。
苦しい。
悲しい。
痛い。

私が秋原の傍にいると、秋原も苦しいのか。
私は秋原を追いかけられなかった。




次の日秋原を見ても、まともに目を合わせられなかった。
私と目を合わせたら、秋原はまた苦しそうにするかもしれない。
そう思うと悲しくて、その日一日私は下を向いていた。


授業が終わって委員会に行こうとして、ふとあの庭が見える場所にきた。
あの時なんで秋原が私を突き飛ばしたのか。
きっと私が煩わしかったのだろう。
秋原みたいに罠にかからないようにここを通れれば、少しは彼に近づけるだろうか。

私と一緒にいると秋原は苦しいだろうけど、私は秋原と一緒にいないと苦しい。
一緒にいたい。
秋原の傍にいたい。
今でも秋原が大好きだ。

あの壁まで行ってみよう。
その次はもう少し先まで。
少しずつ少しずつ、慎重に庭に下りる。
注意深く周りを観察して、一つまた一つと罠を通り抜ける。
あと少しで壁までたどり着く。
そう思って油断したのかもしれない。

「あっ」

蛸壺の存在に気づかず、私はあっけなく落ちた。





誰も通らない。
だんだん暗くなってきた。
穴は結構深くて、縄も何も持ってきていない自分に腹が立った。
これでは秋原に嫌われるのも仕方のないことだ。
そう思うと悲しくて、我慢していても涙があふれてくる。

「っ」

ダメだ、泣いてはダメ。
また秋原に呆れられてしまうかもしれない。
これ以上嫌われたくない。

「七松・・・」

幻聴が聞こえたかと思った。

「っ・・・秋原!」

蛸壺の穴の先、さっきまで空しか見えなかったそこに、秋原の顔が見えた。
見つけてくれた!
秋原が見つけてくれた!!
私は嬉しくて、我慢していた涙が零れたことにも気づかなかった。
でも、すぐに踵を返し見えなくなってしまった秋原に、不安になる。
ああ、呆れられた?
嫌われた?
どうしよう、どうしよう。

ざっ

不安になってまた膝を抱えていたら何かが落ちる音がして、目の前に秋原が立っていた。

「・・・大丈夫」

秋原は優しく笑ってくれて、私の頭を壊れものでも扱うように優しく優しく撫ぜてくれた。
私は嫌われてなかった?
秋原は私を嫌っていない?
呆れていないの?

嬉しくて嬉しくて、もっと涙が零れた。

ああ、やはり私は秋原が大好きなのだと、そう思った。







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