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次の日、七松に会った。
すぐに目をそらされて、これでよかったと思うのに、心が軋んだ音がした。
見て見ぬ振りなど 05
七松の声を聞かなくなった。
教室でも、いつも上げる七松の元気な声が響かない。
大人しく席に座っているだけだ。
具合が悪いのだろうか。
なぜ周りは気づいてやれない。
そんなことを思っても、私にはどうする事も出来ない。
七松を遠ざけたのは自分で、そんな私を七松もついには嫌いになったろう。
少しぼさぼさの七松の髪の毛を、久しぶりに見た気がした。
最近は笑顔しか見ていなかったから。
授業も終わり、委員会活動も滞りなく終わった。
後は晩御飯を食べてお風呂に入り寝るだけだ。
今日も一日が終わる。
長い一日がやっと終わる。
七松が傍にいた時よりも、一日が長く感じた。
ぼーっと食堂までの廊下を歩いていると、最近よく傍にあった見知った気配が庭にあるのに気付いた。
だけど、庭には誰も見当たらない。
ふと、庭の奥にぽつんと一つ開いている穴、一人用塹壕、通称蛸壺だ。
誰がそこに落ちたかなんて、考えるまでもなかった。
「七松っ」
私は急ぎ穴の近くに寄った。
なんでこんなところにいるのかなんて、今はどうでもいい。
早く傍に行ってやらなければ、そう思った。
穴の淵に立ち中を覗き込む。
夕刻の暗闇が近づいてきたこの時間帯には、深い穴の中など上手くは見渡せない。
それでも、私にはわかった。
膝を抱えて一人ぽつんと座りこんでいる七松の姿が。
「七松・・・」
「っ・・・秋原!」
寂しかったのだろう、恐かったのだろう。
七松は私の声にはじかれたように上を見上げ、目じりに溜まった涙が一粒ぽろりと落ちたのを見てしまった。
私はすぐに踵を返して、近くに生えている木に持っていた縄を括りつけた。
取れないかを確かめて、縄をぎゅっと握り、穴へ落ちた。
ざっ
一人用の蛸壺だが、一年生が二人なら問題ないほどの大きさの穴だった。
私も落ちたのに驚いたのか、七松は目を見開いて、その拍子にまた涙が一粒ぽろりと落ちた。
ここにいつからいたのだろう。
真っ暗な穴の中、傍を誰も通らず助けも呼べない。
「・・・大丈夫」
恐かったな、もう大丈夫。
私が来たから、一人じゃない。
すぐ助けてやる、もう大丈夫だ。
土をかぶった七松の頭に手を置いて、優しく優しく横に動かす。
恐くない、恐くない。
私と七松は無事、蛸壺から脱出した。
続
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