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あれ?
まーたつかれてる。
6-12
「三郎」
「あ、伊月先輩」
三郎が縁側でぼーっと外を眺めるなんて珍しいこともあるものだ、と私は笑いながら三郎に近づいた。
実習帰りの五年生なのだから、疲れているのだろう。
ま、それだけではないのだが。
「どうしたんだ?」
「・・・猫が」
「猫・・ああ忍術学園の裏庭に居座っていたやつか」
「・・・・はい」
そいつがどうかしたのか、って聞くと、三郎は少し言うのを躊躇ってから一気に言い放った。
今日、朝飯を持って行ったら、裏庭の隅っこで丸まって冷たくなっていたのだ、と。
辛そうに眉根を寄せて皺を作る三郎に、まったく、とため息をついた。
周りは三郎を神経の太い、悪戯好きの天才としか認識していない人が多いだろうが、まったく違う。
三郎は繊細で脆くて、雷蔵並みに優しい心を持っている。
だから、猫一匹にこんなにも悲しんでいる。
たかが猫一匹。
されど猫一匹。
普通の人なら一瞥くれてやるだけで、見向きもしなくなる猫の死骸に、三郎は心を痛める。
それが、前々から餌をやっていたのならなおさらなのだろう。
だから、ほら。
つかれてる。
三郎の肩に乗った小さな前足。
朧気な猫の輪郭を持ったそれは、三郎の優しさに自分を助けてくれるのでは、と助けを求めている。
でもダメだよ。
三郎にはお前を助けては上げられない。
ほら、天へお逝き。
ぱっぱと三郎の肩の上あたりを払うと、猫らしきものはすうっと透けて消えてしまった。
「?伊月先輩、何してるんです?」
「ん?三郎つかれてるみたいだから、ちょっとね」
「ふーん。ま、ありがとうございます」
「どういたしまして」
空を仰げば
(疲れは取れたかい?)
(そうですね、少しは取れたように思います)
((少しは、ね)それはよかった)
続
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